【完】君しか見えない
トン…と背中になにかが当たる。
この声、甘い香り──。
「……っ」
振り返れば、私を見下ろす楓くんがそこに立っていた。
というか、距離感がおかしい。
片手を回され、後ろから抱きしめられているみたいな体勢になっている。
こんな近くで綺麗な顔に見つめられてたら、平常心でいられないって……!
「来んの、はえーな」
「そ、そうかな」
なんとか答えたものの、全神経はというと乱れた鼓動を抑えるのに必死で。
「楽しみすぎて、待ちきれなかった?」
甘い声で囁き、ニヤッといたずらな笑みを口にのせる楓くん。
うう……あながち間違ってないです……。