【完】君しか見えない
あっさりと塀から手を離すと、その手をズボンのポケットに突っ込んで、なにごともなかったかのように歩いて行ってしまう。
「楓くん……」
届いたはずのその声に、楓くんが反応してくれることはなかった。
後ろ姿を見つめ、立ち尽くす私。
……ねぇ、楓くん。
心の中で問いかけ、ぎゅっとこぶしを握りしめる。
楓くんなら、わかってるよね?
私が、こんなことくらいで引き下がるようなやつじゃないってこと。
ぐっと下唇を噛みしめ、楓くんの背中を見つめる。
いいよ。何度私の手を振り払ったって、私へこたれないって、そう決めたの。
今度こそは、楓くんの隣にいるから。
「覚悟しててね、楓くん」
楓くんに伝えなきゃいけないこと、たくさんあるんだよ。