【完】君しか見えない
涙を流しながら楓くんを見上げていると、不意に引き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられた。
「やばい、どうにかなりそう、俺。
あー、やっと、気持ち伝えられた……」
大好きな甘い香りと、胸から聞こえてくる楓くんの心音に包まれて、抱きしめられていることを実感する。
「私じゃ、幸せにしてあげられないかもしれないよ?」
涙に濡れる掠れた声で口に出すと、楓くんが腕を緩めて私の体を腕の中に囲ったまま、おでこを小突いてきた。
「ばーか、俺が幸せにするんだよ」
「うう、楓くん……」
泣いてる私を見て、楓くんが笑う。
「ふっ、おまえ泣きすぎ」
ああ、ほんとだ。
「涙腺、緩くなっちゃったかなぁ」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら、へらっと笑みをこぼす。