【完】君しか見えない
すると、また背中に腕が回り、引き寄せられるようにして抱きしめられた。
楓くんはどうして、こんなにも優しく抱きしめられるんだろう。
抱きしめるって行為が、こんなにも優しいものだと初めて知った。
「もう、離さないから」
「うん、離さないで……」
どうしよう、涙が止まらない。
制御、できない。
これじゃ、楓くんの肩がびしょびしょになっちゃうのに。
……ごめんね、楓くん。
今は、楓くんの愛に包まれていてもいいかな。
今は、わがままを言ってもいいかな。
君が好きだという気持ち以外、全部なくなっても構わない。
このまま時が止まってしまえばいいのに。