【完】君しか見えない
楓くんが私の体を抱きしめたまま顔だけ離し、少し怒ったように私を見つめてきた。
「昨日会ったのに、もう足りねーんだけど。
頭ん中おまえばっか。
どうしてくれんの」
「私も……。楓くんにずっと会いたかったよ」
「ん?聞こえねー」
うそだ、絶対聞こえてた……!
楓くんがいたずらっ子みたいに口の端を上げて、顔を覗き込んでくる。
「もう一回言えよ」
こんなに至近距離で見つめられて、拒むことができるはずもなく。
「楓くんに会いたかった!」
聞こえないとは言わせないくらい声を張り上げると、楓くんが満足そうに笑った。
「よく言えました」