【完】君しか見えない


楓くんが私の体を抱きしめたまま顔だけ離し、少し怒ったように私を見つめてきた。



「昨日会ったのに、もう足りねーんだけど。
頭ん中おまえばっか。
どうしてくれんの」



「私も……。楓くんにずっと会いたかったよ」



「ん?聞こえねー」



うそだ、絶対聞こえてた……!



楓くんがいたずらっ子みたいに口の端を上げて、顔を覗き込んでくる。



「もう一回言えよ」



こんなに至近距離で見つめられて、拒むことができるはずもなく。



「楓くんに会いたかった!」



聞こえないとは言わせないくらい声を張り上げると、楓くんが満足そうに笑った。



「よく言えました」

< 252 / 360 >

この作品をシェア

pagetop