【完】君しか見えない
たて続けに鳴るバイブ音は、楓くんのズボンのポケットから聞こえてくる。
そこでやっと唇が離れたけど、楓くんは不満そうな表情で。
「ったく、なんだよこんな時に」
「友達?」
ディスプレイに視線を走らせた楓くんは、はぁ……とため息をついた。
「ダチから。合コンの誘いだわ」
「合コン……」
「彼女がいるのに、行くかっつーの」
楓くんが愚痴りながらスマホの電源を落として、制服のズボンのポケットに戻そうとする。
すかさず私は明るい声を張り上げていた。
「合コンに誘われるなんて、さっすが〜!
まったく、モテ男め〜」
このこの〜なんて言いながら、からかうように楓くんを肘で小突く。
だけど楓くんはそのノリにノッて返してはくれず、「は?」というつぶやきだけが返ってきて。