【完】君しか見えない


たて続けに鳴るバイブ音は、楓くんのズボンのポケットから聞こえてくる。



そこでやっと唇が離れたけど、楓くんは不満そうな表情で。



「ったく、なんだよこんな時に」



「友達?」



ディスプレイに視線を走らせた楓くんは、はぁ……とため息をついた。



「ダチから。合コンの誘いだわ」



「合コン……」



「彼女がいるのに、行くかっつーの」



楓くんが愚痴りながらスマホの電源を落として、制服のズボンのポケットに戻そうとする。


すかさず私は明るい声を張り上げていた。



「合コンに誘われるなんて、さっすが〜!
まったく、モテ男め〜」



このこの〜なんて言いながら、からかうように楓くんを肘で小突く。



だけど楓くんはそのノリにノッて返してはくれず、「は?」というつぶやきだけが返ってきて。

< 256 / 360 >

この作品をシェア

pagetop