【完】君しか見えない
ばかだな、十羽は。
もう8時だろ。いつからここで待ってたんだよ。
十羽の姿を見たら、いろんなものが込み上げて来て。
俺はなにも言わず歩み寄ると、腕を掴んで十羽の体を抱きしめた。
「楓くん……。
ごめん、なにもやってあげられない彼女で」
消え入りそうな声で謝る十羽。
「好きだよ、楓くん」
「知ってる。
余裕なくてごめん」
十羽が腕の中で、ふるふると首を横に振る。
「見つけてくれて、ありがとう」
俺は十羽の頭を撫でながら、耳元に口を寄せた。
「帰ろ、一緒に」
「うん」
離れかけた心が、静かにそっと再びひとつになった。