【完】君しか見えない
◇ 第3章 ◇

L あの日、伝えられなかった言葉







「黒瀬ー!早く来いよー!」



数メートル先で、黒瀬の先輩と思しき人が黒瀬を呼ぶ。



「あっ、はーい!
三好……。じゃあな」



戸惑う表情を浮かべたまま、でもそっとしておくのが一番だと思ったのか、黒瀬は後ろ髪を引かれるように先輩と思しき人の方へ走って行く。



一連の光景が、まるで映画を見ているかのように現実味がなくて。



ただひとつ確実なのは、黒瀬の表情が嘘をついているとは思えなかったことだけ。



黒瀬は嘘が下手だ。


そのことは、親友の俺が一番知ってる。



じゃあなんであんなこと──。

< 294 / 360 >

この作品をシェア

pagetop