【完】君しか見えない
「十羽」
涙に濡れた声で名前を呼ぶと、十羽はおどけた笑いを消して、柔く穏やかに笑んだ。
「だれより、幸せになってね。
ずっと楓くんのこと見守ってるから」
十羽の言葉に言いようのない儚さを感じる。
どれだけ手を伸ばしても、届かない、そんな感覚。
「行くなよ、十羽。
十羽っ……」
いつだって、そのふたつのきらめきの中に俺を映してくれた瞳が優しく揺れる。
そして。
「大好き。
ありがとう。
……ごめんね。
さよなら」
まるでぷつんと切れる糸の音が聞こえたように。
おまえが、見えなくなった。