【完】君しか見えない
「でも俺、あんな別れ受け入れねぇから」
十羽が消えたあの時、俺は心の中の言葉を形にすることができなかった。
その時の分が、出るのをずっと待っていたかのように堰を切ってこぼれる。
「なんで何度も俺のこと置いていくんだよ。
ずっと隣で笑ってろよ」
十羽の笑顔が脳裏に浮かぶ。
目を細めて、くしゃっと笑う十羽。
その笑顔が、今は遠くて。
そんな遠くに行くなよ、十羽。
おまえは危なっかしいんだから、俺がついててやらなきゃだめだろ。
「俺の人生から十羽がいなくなったら、俺は俺じゃなくなるんだよ。
おまえがいないと、俺の心は欠けちゃうんだよ。
俺にはおまえが必要なんだよ」
十羽の手を握る手を、祈るようにひたいに当てる。
「なぁ、十羽……」
うっすらと冷えた病室の中、無機質な電子音だけが響いている。
どんなに呼びかけても、十羽は返事をしてくれなかった。