【完】君しか見えない
「ま、元気なら良かった」
楓くんがぽつりとそう呟いたところで、私は家の近くまで来ていることに気がついた。
右斜め前に見える路地を入っていったところに家はある。
「あっ、楓くん。ここまでで大丈夫だよ」
「いーよ、最後まで送ってくし」
「ううん、ほら、千隼に遭遇しちゃったら大変だし、ここでほんとに大丈夫」
「……ふーん?」
不服そうな楓くんの視線から逃げるように、私は路地へと駆け、少し離れたところで楓くんの方を振り返る。
「今日は送ってくれてありがとう。
おやすみ!」
「ん」
短く返すと、こちらに背を向けて歩いて行く楓くん。