【完】君しか見えない
楓くんの背中が遠ざかっていく。
やがてその姿が見えなくなると、私はぷつんと糸が切れたように、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「はぁぁぁ……」
ずっと我慢してたけど、もう限界だ。
よく今まで耐えたと思う。
……あぁ、もうずるいよ、楓くん。
閉じ込めておいた檻から解放されたかのように、心臓が騒ぎだす。
楓くんが触れた髪も手も、思い返すたびにその感覚が鮮明によみがえる。
楓くんにその気はないって頭ではわかってるのに、いちいち反応して〝好き〟がどんどん募っていってしまう。
やっぱり、どうしようもなく好きだなぁ、君のことが。
本音はじっと隠したまま。
それでも、心の奥では泣き叫んでた。