【完】君しか見えない


『十羽』



男子の姿が見えなくなった頃、ふわりと落ちてくる優しい声。



『大丈夫?なにかされた?』



楓くんの声に、緊張で固くなっていた心が解されていく。



『大丈夫、なんともない。
助けてくれてありがとう』



ふるふると首を横に振ると、楓くんは柔く微笑み、小さい子をあやすように私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。



『遅くなってごめん。でも無事で良かった』



ピンチの時はいつだって駆けつけて、優しさで包み込んでくれる。


そんな楓くんは、私にとって王子様だった。



『ねぇ、十羽』



『ん?』



見上げると、楓くんがニヤッと悪巧みをするいたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。



『次の授業、サボっちゃおっか』



『えっ?』



優等生の楓くんがそんなことを言いだすなんて思いもしなかったから、思わず驚きの声をあげてしまう。



物心ついた頃からずっと一緒にいるけど、楓くんが授業をサボったことなんて一度もない。

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