【完】君しか見えない
「楓くん、また、明日」
一言一言噛みしめるように言って、十羽が笑った。
十羽の声で紡がれるその響きに、胸の奥で懐かしさが広がった。
物心ついた時から、十羽と別れる時には必ず言い合っていた「また明日」。
その言葉をまた十羽の口から聞く日が来るなんて、思いもしなかった。
中2の冬、十羽が目の前からいなくなってから。
……だけど、俺は答えられなかった。
「ん、じゃあな」
そう言うので、精いっぱいで。
路地へ駆けていく十羽の後ろ姿を見つめていた俺は、空を仰いだ。
──再会なんてしたくなかった。このまま会わないままでいたかった。
でもずっと、会いたかった。
ふたつの思いが渦巻く俺の心は、やっぱりおまえをまっすぐに見られない。