【完】君しか見えない
ぐっと引っ張られるように、楓くんの足が止まる。
「なんだよ、今度は」
こちらに背を向けたまま発せられる、煩わしげでイラついた声。
一瞬胸が痛んだけれど、それに臆してここで引き下がるわけにはいかなかった。
だって───、
「楓くん、怪我してる……?」
「は?」
「私の手を掴む手が、いつもと逆の手だから」
「……っ」
驚いたようにこちらを振り返る楓くん。
ガードが緩んだ隙に、すかさず右手を掴む。
見れば、手首の部分が赤く腫れていた。