【完】君しか見えない


「やっぱり……」



手首を見つめたまま私がつぶやくと、楓くんは面倒そうに嘆息した。



「ほんと、気づくなってとこばっかり気づくよな、おまえって」



「無理、してたの?」



「おまえには関係ねぇよ」



「でも」



顔をあげると、まだしかめっ面の楓くんが、ユニフォームのポケットからなにかを取りだした。


目の前に差し出されたそれは、包帯だった。



「そこまで言うなら、これ巻いてよ」



「私がやっていいの?」



「どうせこのまま帰らせても、心配したままなんだろ。
右手だから自分じゃ巻けねぇし。
早く、だれか来る前に十羽が巻いて」



「う、うん」



言われたとおり包帯を受け取り、楓くんの白い手首にそれを巻きつけていく。



綺麗な手……。


こんなに綺麗な手であんなに豪快なシュートを決めるんだから、魔法でも使ってるみたい。



触れる楓くんの手が熱い。

< 75 / 360 >

この作品をシェア

pagetop