【完】君しか見えない
「やっぱり……」
手首を見つめたまま私がつぶやくと、楓くんは面倒そうに嘆息した。
「ほんと、気づくなってとこばっかり気づくよな、おまえって」
「無理、してたの?」
「おまえには関係ねぇよ」
「でも」
顔をあげると、まだしかめっ面の楓くんが、ユニフォームのポケットからなにかを取りだした。
目の前に差し出されたそれは、包帯だった。
「そこまで言うなら、これ巻いてよ」
「私がやっていいの?」
「どうせこのまま帰らせても、心配したままなんだろ。
右手だから自分じゃ巻けねぇし。
早く、だれか来る前に十羽が巻いて」
「う、うん」
言われたとおり包帯を受け取り、楓くんの白い手首にそれを巻きつけていく。
綺麗な手……。
こんなに綺麗な手であんなに豪快なシュートを決めるんだから、魔法でも使ってるみたい。
触れる楓くんの手が熱い。