円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
ベッドでうずくまってるエリノアに、
さっとアリスが近づき、
大丈夫ですかと尋ねている。
ウィリアムは、
それには何も手を打たず、
遠くの方からじっと様子を
うかがっている。
どんなときにも冷静で、
慌てない人が、まったく
勝手がわからず、どうしていいのか
途方に暮れているように見える。
たかが女性一人のことだというのに。
ルーカスは、まるで、別人のように
ふるまう主人に目が釘付けになっていた。
しばらくして、ウィリアムは、
アリスに着替えを持って
こさせるように言った。
ルーカスは、主人から何か用事を
言いつけられる前に、
部屋から下がろうと思って、
軽く礼をした時だった。
メアリーの能天気な声が聞こえて来た。
「ウィリアム?あら、嫌だ。
あなた、エリノアのこと泣かせたの?」
ちょうど、主人がメアリーに
背を向けたところだった。
ルーカスに何か言おうとしていた
主人の顔つきが凍り付く。
ウィリアムは、さらに表情を固くして、
一度、何か言いかけて止めてしまった。
「さあ、メアリー様、
お部屋に戻りますよ。
エリノア様のお召し物を
選んでいただけますか?」
アリスがメアリーに声をかけ、
上手に部屋から誘い出した。
メアリーが部屋を出て行く際に、
ウィリアムに話しかけて来た。
彼女は、にこにこ笑っている。
「ウィリアム?後で話を聞くわよ。
場合によっては、お父様に……」
「わかっている。彼女次第だ。
アストン氏のところに行く覚悟は
できてるよ」
「そう、それならいいわ」
メアリーが部屋から出て行くと、
ウィリアムは、エリノアの方に
歩いて行った。