円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
「エリノア、痛くなかったか?」

「はい」エリノアは無表情に答えた。

「手を見せてごらん」

「いいえ。大丈夫です」
素っ気なく断った。

「エリノア、今回のことが、
どこかから洩れて、
人のうわさになって、君の評判に
傷がついてしまうかもしれない。
だから、君は僕のところに来るといい」

ウィリアムは、言葉とは裏腹に、
優しい目をして、愛おしそうに言う。

だが、怒りに震えていたエリノアの方は、ウィリアムの顔なんか観察している
余裕はなかった。

「私の評判に傷がついたなら、
それでもいいわ。別に誰かに頼ろうなんて思てませんから。
私は、菜園の作物の研究をして、
立派に一人で生きていくつもりです」

「エリノア、それはいけない。
若い女性が、一人で生きていくなんて、
そんなに軽く考えるものじゃない」

「軽くなんて考えていないわ。
菜園に力を入れて来たのだって、
あなたのような男性に、
自分の将来を気まぐれで
左右されたくないからよ」

「エリノア、
これは気まぐれなんかじゃない」

「気まぐれじゃない?
前からこんなことしようと思ってたの?」

「そうかもしれない」

「お願い。出て行って。一人にして」
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