円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
エリノアが歩き出した時に、
声をかけられた。
「あれ?君、ちょっと待って」
最初に声をかけられた時は、紹介されたわけでもなく、近くに知り合いもいなかった。
エリノアは、自分のことだと気が付かずにそのまま通り過ぎようとした。
「ちょっと待ってったら」
二回目に呼びかけられた時は、ぐいっと腕を引っ張られてつんのめりそうになった。
「君、だよね?」
エリノアは、相手の顔を見てようやく思い出した。
「ああっ、ビリヤード場の」
エリノアが、さっきビリヤード場まで案内した男性だった。
「やっぱり。どうしたの、その格好は?」
彼にあった時は、メイド服を着ていた。
でも、今は恐ろしく場所を取る大きなスカートをはいている。
まるで別人だ。
まさか、気が付く人がいるわけないだろうとエリノアは、高をくくっていた。
「ああ、これ?何でもないわ」
彼は、面白そうにエリノアを見つめる。
すくなくとも、メイド服よりは興味を持ったようだ。
「ねえ、それより、どっちの君が本当なの?
前に見た時は、確かにメイドの格好だった」
「そうだったかしら?」
「じゃあ、今度は何になるの?」
「何にもならないわよ。もうこれで終わり。おふざけはもうしないの」
「なんだ、残念だな」