円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
「大丈夫でしたか?
お怪我はありませんか?」
二人がいってしまうと、
ルーカスは何事もなく尋ねた。
「ええ、ありがとう。
気付かれずに済んだわ」
エリノアは、
彼の毒気に当てられ、ちょっとふらついて答えた。
「さあ、お部屋に戻りましょう」
「ルーカス、
何か用事があったのではないの?」
エリノアは、正気に戻って言う。
「ウィリアム様に
お水を用意しようと思いましたが……
この通り、遅くなってしまいました。
旦那様は、もうお休みになって
いらっしゃるでしょう。エリノア様を、先にお部屋までお送りします」
部屋の前まで来て、
ルーカスが先ほどの無礼を詫びた。
すぐに、彼が下がろうとすると、
エリノアは彼を引き留めた。
「中に入って、ルーカス。話があるの」
ルーカスは、エリノアの澄んだ
まっすぐな目を見た。
「ですがエリノア様」
中に入るなんて、どうだろう。
入るのを、一瞬ためらった。
でも、この機会を逃すと、
嬢様から何も聞きだせないかもしれない。
「ごめんなさい。もう少し付き合って」
エリノアは、
ベッドに座り両手で顔を隠した。
ルーカスは、黙って彼女を見守った。
エリノアが、かしこまって言う。
ルーカスは、この女性を見るといつも微笑ましく思う。
ウィリアム様と本当によく似ているのだ。
「ルーカス、いったいあれは何?」
「わたくしの口からは、
申し上げられません」
ルーカスは、
吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
「そう」
「ですが、申し上げておかなければ
ならないことはあります。
トーマス様が相手にされるのは、
あのメイドだけではありません」
「ミーガンだけではないの?」
「はい、エリノア様。
ですから、トーマス様とのことは、よくお考え下さい」
「わかったわ。ありがとう、ルーカス」
「エリノアお嬢様?」
「なに?」
「旦那様のこと、
もう一度よくお考え下さい。
旦那様は、エリノア様のことを
よくお考えになっていらっしゃいます。
考えすぎるから、
黙ってはいられないんです。
こんなふうにされるのは、
エリノア様だけです。
本当に思っているのは誰なのか、
よくお考え下さい」