円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
その日は、キャサリン嬢に会ってから、
一日中幸せな日を送った。
エリノアは、メアリーとお茶を飲み、
昼食に部屋の外に出る以外は、ずっと部屋の中に閉じこもっていた。
そうしていれば、気まずい相手とも
顔を合わせなくて済む。
本に集中していたのだが、
急に思考を邪魔されて、
パタンと本を閉じた。
浮かんでくる様々な思いの合間に、
具合の悪そうな顔をしている
ウィリアムのことが気になった。
ウィリアムには、
ルーカスが付いている。
何も、自分がそばにいなくても
いいのだけれど。
気持ちが千々に乱れてしまって、
ページをめくる指が進まない。
何かが引っ掛かっている。
昨日のことに頭を煩わされているのだろうか?
そうでもない気がする。
一日経って冷静になって見ると、
どういう訳か、トーマスのことに、
それほどショックを受けてはいなかった。
もちろん、目にした内容は衝撃的で
驚いたけれども、心が揺さぶられる
ような事態にはならなかった。
逆に、彼を好きになっていて
のめり込んでいると思っていた自分が、
こうもあっさりと、見たものを受け止めていることにびっくりしていた。
「もっと、ショックを
受けると思っていたのに」
彼女は、一息ついて、
一人でゆっくりとお茶でも飲もうと思った。
部屋の呼び鈴を鳴らして、
しばらく待ってみてもアリスは一向にやってこない。
夕食の準備に忙しいんだろうなと、
しばらく待ってもう一度呼び出しても同じだった。
「何だろう」
エリノアは、何かあったのかな?
と好奇心に負けて部屋から出て行った。
ちょっと使用人のところに行けば、
何か分かるかもしれない。
そういう、軽い気持ちだった。