円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
「母さん、もう伯爵家から戻られた
のですか?」
「戻られたですって?
ウィリアム、何を呑気なことを……」
息子が帰って来たと知らされて、
母は苛立ちを隠さずに言う。
侯爵夫人は、息子の後ろにいる娘の顔を
よく見た。
すぐに自分の姪っ子だと分かった。
「エリノア?お前、
今までどこにいたの?」
侯爵夫人はエリノアに向けて質問したが、ウィリアムが代わりに答えた。
「どこにって、僕と一緒でしたよ」
「一緒だった?」
ウィリアムは、厳しかった母親の表情が
緩み、穏やかな顔になったのを見て
ほっとした。
「はい」
「それは、本当なの?」
母の緊張が解かれ、ウィリアムも口元を
緩めた。
「もちろんです。
さっきまで狩猟小屋で一緒でした」
「ウィリアム……」
「どうかしたんですか?」
「エリノアとトーマスさんが、
駆け落ちしたって、伯爵家に集まった人
たちの中で、大騒ぎになってるわ。
お前が、戻ってるんじゃないかと思って。
エリノアのこと、何か知ってるか
聞こうと思って帰って来たんじゃないの」