円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~

当のメアリーは、
ウィリアム本人に、
さほど興味があるわけではない。

さらに言うと、母が気にしている
侯爵家の財産や、家の権利書だって、
それがどうなろうと、
まったく興味がなかった。

彼女の関心は、ウィリアムの友人の
エリオット氏が舞踏会にやってくるかどうかの一点にあった。

「ねえ、ウィリアム、
もしかして、これから
あなたが迎えに行くっていうのは、
あなたのお友達のこと?」

メアリーがウィリアムの方に
顔を向けて言った。

「いいや、残念ながら違うよ。
彼はうちには滞在せず、
直接伯爵家に行くと言っていたから」
ウィリアムが答える。

「そうなんですか」

メアリーは、露骨に残念そうな顔を
しないように笑顔を作った。

舞踏会を楽しみにしているのも、
ウィリアムの
友人のエリオット氏と踊って、
いくらか会話ができるからだった。

エリオットが、
侯爵家に滞在するのなら、
エリノアと二人で訪ねて行けたのにと
残念に思った。


「これから迎えに行くのは、
アメリカ人なんだ。
この辺りの設備に投資してくれるらしい」


「そうだったんですか」
メアリーはうわの空で答えてしまって、うっかり従兄を引き留めるのを
忘れてしまった。


「ですので、
今日はこれにて失礼いたします」

メアリーが我に返ったのは、
ウィリアムが滞在中のもてなしのお礼を
述べて、屋敷を出て行った後だった。

後に、母親のでっかい溜息だけが残った。

それを聞くと、真面目なメアリーは、
本当に申し訳なく思うのだった。
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