円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
エリノアは、
メアリーの部屋に入って行った。
「ねえ、メアリー」
「なに?」
メアリーは、手元の刺繍に集中している。
「伯爵家の舞踏会だけど、
一人で行ってくれないかな?」
「はあ?」
あまりの突飛な申し出に、
メアリーは驚いて顔を上げた。
エリノアは、メアリーの反応を
満足げに見る。
「私、することがあるのよ」
「することって、なに?
舞踏会より大切なことなんて、
私には思いつかないわ」
「メアリー、
私だって舞踏会には興味があるわ。
だからあなたと一緒に、
伯爵家まで行くわよ。
でも、途中で別れるの」
「どういうこと?」
訳が分からないと、
メアリーは刺繍をするのをあきらめて、
針を布に突き刺した。
「ほら、これ見て」
エリノアは、持っていた袋をそっと
取り出した。
新しいメイド服とアリスに借りたエプロンがはいっている。
エプロンは、用意するのを忘れて、
アリスに借りたものだ。
だから、新品ではないが、
きれいに洗濯されて清潔に保たれている。
手にしたメアリーが、
戸惑いの表情を見せた。
「どうするの?これ」
不安そうに妹に尋ねる。
メアリーは、
ますます訳が分からなくなって、
エリノアの手を取った。
「どうするのって、着るのよ」
「誰が?」
「私が」
エリノアは、自分自身を指で指す。
メアリーの顔が、雲っていき、とうとう絶望的な表情に変わっていく。
言葉もなく妹の突然の申し出に、
おろおろするばかりだ。
「なんでエリノア、
あなたがメイドの服を着るの?」
「なんでって、メイドになるからよ」
「メイドになる?
エリノア、ダメよ。早まらないで。
いい?ウィリアムは、
まだ結婚するって、決まったわけ
じゃないわ。落ち着くのよ」