キス税を払う?それともキスする?
 頭を下げて立ち去ろうとする奥村に南田はスマホを差し出した。

 見せなくはなかった。

 こんな手口に使うつもりはなかった。
 しかし今は由々しき事態だ。

 スマホから音声を流す。

『…や。ヤダ…南田さん…やだって。』

「な…どうして…。」

 奥村は愕然として椅子に崩れ落ちた。

 その動画は医務室で寝ていた奥村が夢でうなされているところを撮ったものだった。

 奥村はサッと南田のスマホを奪い取ると削除の方法を模索しているようだ。
 その奥村に出任せを口走る。


「複写しないわけないだろ?」

 本当に複写しておこう。
 貴重なアレを消されてはたまらない。

「契約するだろ?」

 ここまでして彼女と契約したいとは自分はどれだけ必死なのだろうか。


 奥村は奥村で考えることがあるようだ。
 意見してきた。

「ちょっと待ってください。
 その動画をどこかで流すとかそうなったら、私に名前を呼ばれている南田さんにも害がありますよね?」

「そんなの見せ方次第だ。」

 誰かに見せるものか。
 これは僕だけのものだ。

 しかしその一言は奥村に効果があったようで俯いて黙ってしまった。
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