キス税を払う?それともキスする?
 奥村はまた思い出したように今度はスマホを取り出した。

「昨日、思いついて調べたんですけど、通訳アプリがあるんです。」

「通訳アプリ?」

 南田は嫌な予感がした。

「南田さんの難解な言葉を解説してくれるのがないかなぁって探したんです。
 そしたら普通の通訳アプリでも案外いい線いってて…。」

 アプリを起動させようとする奥村のスマホに南田は手をかけた。

「理解しない方がいいこともある。」

 それをされたら全ての本心を黙っていなければならなくなる。
 そして僕の考えが浅はかだと暗に露呈させるようなものだ。

「どうしてダメなんですか?
 理解しない方がいいなんて。
 なんのために会話してるのか分かりません。」

 ムキになる奥村のスマホは取り合う形になり「やめてください」「なぜ君はこうも強情なのか」と言い争いになった。

 気づけば南田の顔は奥村のすぐ近くにきてしまっていた。
 奥村が身を固くしたのが分かった。

 それほどまでに僕とは嫌なのだろうか…。

 奥村のスマホを握っていた手を離して立ち上がる。

「好きにしたらいい。」

 南田は奥村の顔が見ていられなくなって無意識のうちに自室へと足を向けていた。
 

 南田には分からなかった。

 今まではこちらが望んでいないのに女性が寄ってきた。
 それは全くもって迷惑でしかなかった。
 ただそれをどう安全に対処するかにかかっていただけだ。

 でも奥村さんは違う。

 愛おしくて…側にいて欲しいのに、彼女は僕の手をすり抜けて逃げて行ってしまう。

 解決策は見つからないまま、平常心だけはなんとか取り戻した南田は、とにかく彼女をリラックスさせようとDVDを何枚か手にしてリビングへ向かった。

「映画でも視聴するか?」

 無表情を貫いて平坦な声を出した。
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