キス税を払う?それともキスする?
 もういい。この際だ。
 今ここで言ってしまおう。

 南田は決心すると口を開いた。

「そのままで聞いてくれ。」

 すぐ目の前にいる奥村が愛おしくて顔を見たかった。
 だが、それでは伝えたいことが言えなくなってしまうかもしれない。

 南田は奥村の顔を見ないまま言葉を重ねる。

「寺田さんのことは悪かった。
 僕に癒着の件を協力しないか打診してきたが、無下にしたために増悪を抱かれて。
 だから僕に関わらない方が…。
 いや…そうじゃなくて…。」

 何を言いたいんだ。そうじゃないだろ。

 伝えたい言葉があり過ぎるのに口は思うように動いてくれない。
 心臓だけは自分の意思に反してドクドクと勝手に速度を上げていく。

「その…守るから…契約を今一度…。
 いや違うんだ。
 側に…いてくれないか?」

 何があっても側にいて欲しいんだ。
 君を守るなんて厚かましいのかもしれない。
 でも君に…奥村さんに側にいて欲しい。

 僕は奥村さんのことが…。

 口を開きかけた南田の所へ無情にも通行人の声が届く。

「ねぇ。
 あの男の人、告白でもしてるのかしらね。
 耳まで真っ赤よ!」

 な…。だからどうしてこういう時に…。

 その声に奥村が振り向いた。
 その顔を見たいとは思っていたが、今はダメだ。

 振り返った奥村の顔はすぐ近くで、余計に南田を動揺させた。
 何より自分の顔が赤くなる自覚があったための背後からの会話だったのだが、それももう意味がない。

 無駄なあがきなのだが、隠すように顔を片手で覆った。

「そのままで、と言ったはずだ。」

 動揺で上ずった声が出る。
 奥村は戸惑ったような顔をしていた。
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