キス税を払う?それともキスする?
「え〜。ほら。
 だって柚子シャーベットの彼でしょ?」

 柚子…シャーベット…?

 南田は思わず操作していたマウスの手を止める。

 森山は、シメシメ気にしてる。
 と内心ほくそ笑んだ。

 しかし南田は平然とした顔で華に指示を出す。

「奥村さん。
 この仕様のことだが、あと少し変更した方がいいだろう。」

 華は珍しく名前を呼ばれてドキッとすると、指し示された資料に目をやった。

 置いてきぼりの森山は不満顔だ。

「ねぇねぇ。まだ話の途中だよ。」

 南田は冷たい視線を向けて、冷ややかな言葉を投げた。

「いい加減、迷惑がられていることに気づかないのか?
 だいたい始業時間は過ぎている。
 仕事も満足に出来ない者に仕事後の予定を話す資格はない。」

 な…。言ってくれるじゃないか。
 森山も負けじと牙を剥く。

「プライベートなことにまで口出ししないで下さい。
 華ちゃんが誰と仕事後に食事しても南田さんには関係ないですよね?」

 南田は返事もせずに森山に背を向けてパソコンへ向かった。

「ちょっと!」

 森山が何か言おうとしたところへ、苛立った声がかけられた。

「も・り・や・ま〜!
 お前が女の子を口説こうなんて百年早い!
 仕事しない奴が定時で帰れると思うなよ!」

 山本が森山の教育担当らしい。
 山本は怒り心頭した顔で立っている。

 その山本へ南田が冷静な言葉を発した。
 その声は冷静というよりも不機嫌そうな声だった。

「山本さん。
 僕らも迷惑なので新人の指導しっかりお願いしますよ。」

 何を偉そうに!

 森山が反論しようとすると山本に頭を押さえられ、頭を下げさせられた。

「悪かった。
 もう仕事の邪魔するようなことさせないから勘弁してくれ。
 こいつの指導ビシバシするからよ。」

「あの…ちょっと待って…。」

 森山の声は聞き入れてもらえずに、引きずられるように山本に連れていかれた。
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