キス税を払う?それともキスする?
 DVDを見ながら、遅くなる前に帰らなきゃ…。

 そう思っていても重くなるまぶたに抗うことができず、華はウトウトしていた。

 夢の中でふわっと柔らかい何かに触れた気がすると微かに「認証しました」という音がした気がした。

 時計の針は12時を回ったところだった。

「どうして起こしてくれなかったんですか。」

 遅くなってしまった帰り道。

 送ってくれるという南田と、華は歩いていた。

「君はあまりにも疲労困憊がはなはだしい。しばしの休息が必要不可欠だ。」

 確かに仕事も忙しいし、何より南田にふり回されて毎晩ジタバタしている。

 恨めしく南田を見ると遠くをみつめながら考えるような口ぶりで話し出す。

「何故、人は嬉々として認証するのか。」

 それを私に聞きますか…。

「僕には理解しがたい。」

 それを私に言いますか…。

「君は…一向に緊張がほぐれる様子もない。」

 なんと返事をしていいのか華は言葉に詰まってしまった。

 そもそも慣れることがいいことなのか華には分からなかった。
 契約関係としたら慣れなければやっていけないのかもしれないけれど…。

 二人はそれぞれ別のことを考えたまま華のアパートの前で別れた。

 華は自分の部屋の時計の針がまもなく1時をさすのを見て、そっと指先でくちびるに触れた。

「あれは今日の認証だったんだ。」

 複雑な思いで触れたくちびるをキュッと結んだ。
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