キス税を払う?それともキスする?
 お昼、狐につままれた気分で華は可奈と食堂にいた。

「どうしたの?華ちゃん?」

「ううん。なんでもない。」

 華は飯野のところで本当に設計の基礎を教えてもらった。
 今日は2時間もない程度だったが、飯野は「また明日」と言っていた。

 南田はどうしてそんなことしてくれたんだろう。

 他のことに思いを馳せる華に可奈は変なことを言い出した。

「南田さん、華ちゃんのことよく考えているよね。」

「え?」

 可奈にはまだ飯野のことは話していなかった。
 飯野のことは本当に南田のおかげなのか怪しい。との思いからまだ話せずにいた。

 だから可奈が言っているのはそのことではなかった。

「華ちゃん昨日はたくさん寝れたでしょ?」

 たくさん…寝れた…?

 確かに寝た。結果的にはそうなったというか…帰れと言われ悔しくて、いっぱい泣いて疲れ果てて…ふて寝したから。

 可奈はまだ変な発言を続ける。

「言い方はダメダメだけどさ。あれはあれで南田さんの優しさでしょ?」

 優しさ?何を…。

「それは可奈ちんが南田さんをひいき目で見てるからだよ。」

 「そんなことないよ〜」とまだ何かを話す可奈の声が遠くに聞こえる。

 優しさから?帰れって?そんなまさか嘘でしょ。

 可奈とあんな会話をした後で、居心地の悪さを感じつつ、南田の隣の席に戻った。

「あの…。ありがとうございます。飯野さんのこと。」

 まだお昼休みだというのにパソコンに向かっている南田に華はおずおずとお礼を言う。

「基礎も出来ていないやつと仕事したくないだけだ。」

 華の顔を見もしない南田からは素っ気ない返事が返ってきた。

 そっか。そうだよね。南田さんが直接教えると時間の無駄とかそういうこと。

 飯野さんの言い分よりも、そっちの方がしっくりきて華は一人納得した。

 可奈の言ってたことも、結果、南田のおかげで眠れたというだけ。

 機能が停止した華とは仕事したくないだけだ。フル活動の時でさえ、他人に託されるほどなのだから。

 午後からは相変わらずの厳しい南田の指導を受けながら仕事をした。

 やっぱり飯野さんも可奈ちんも勘違いしてるのよ。

 優しさから来る厳しさとは到底思えない!そう文句を言いたくなる厳しさだった。
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