キス税を払う?それともキスする?
 休憩室に向かう途中に派遣の子たちが集まって話している前を通りかかった。

 すると呼び止められ、立ち止まると呼び止めたのは南田の元ペアだった加藤だった。

「奥村さんお疲れ様です。最近は南田さん、前ほど怖くなさそうで私もホッとしています。」

 気にしてくれてたんだ。やっぱりいい子。
 いい子って、たぶん年上だろうって人に失礼かな。

「仕事に厳しい人みたいだから…。私はまだまだだから仕方ないかな。」

 南田を庇うような言葉が口を出て、華は自分でも驚いた。

「奥村さんは心が広いです。私なんて南田さんと雑談しただけで泣けちゃいそうになったこともあるんですよ。」

 南田さん何を言ったんだか…。

 加藤は続けて話す。

「南田さんと海外の好きなアーティストが同じだって知って、同じアーティストが好きな人なんて初めてお会いしたので嬉しくて…。
 相性がいいって本当なんですねって言ったんです。」

 聞いたアーティストの名は華が聞いたことのない名前だった。

 やっぱり相性か良かったのは加藤さんとなんじゃないだろうか…そんな思いが頭を巡る。

「それはすごい偶然ですね。」

 力なく華が発した言葉に加藤は首を振った。

「でも南田さんは、趣味嗜好が同じで何が嬉しい。同じではそこから発展はない。何も生まれない。って冷たく言われちゃったんです。」

 思い出したのか、加藤の目はウルウルしている。華も驚いて口を開く。

「でも意見が合わないよりは合った方が…。」

「そう思いますよね!でも南田さんは相違があってこそ面白い。だそうです。
 もう私、何も言えなくて…。」

 南田さんって空気読まな過ぎ…。はぁ。その尻拭いで私が南田さんのペアか…。

 そんなことを思っていると一緒にいた他の派遣の子が話し出す。

「でも良かったじゃない。そのおかげで内川さんとペアになれて、晴れてお付き合いすることになったんだから。」

「もう〜!恥ずかしいから言わないでよ〜!」

 加藤は顔を赤らめて照れたように頬を手で覆った。
 その姿は可愛くて、とても華はそんな風になれないと思ってしまった。

 休憩室に行くと今度は男性社員の声が聞こえた。
 前に嫌なことを聞いてしまったことを思い出して、休憩室に入るのを躊躇してしまう。

 すると驚くことが話されていた。

「南田とペアの奥村さんって、南田が部長に直談判したから代わったんだろ?」

 直談判…。可奈ちんが言ってたことと同じ…。

 華はその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
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