キス税を払う?それともキスする?

 南田さんって思ったよりいい人なのかな…。
 顔は完全にタイプなんだけど…。

 またぼんやりしている華に南田が何かを話し出していた。

「…残業など無能な奴がするものだ。」

 無能…。

 華は絶句して何も言えなかった。

 確かに今日は南田のことで思考回路は全滅だった。だからって…。

「えぇ。私は無能ですから。失礼します。」

「おい。どこへ行く。そっちに出口はないはずだ。」

 屁理屈野郎め!分かってる。出口に向かってるわけじゃない。
 あなたの顔も見たくないだけ。

 だから設計の…理系の男なんて嫌なんだ。
 なんでも理詰めで自分が一番正しいと思ってる。

 華は自分が所属する部署を魔の巣窟と秘かに呼んでいた。
 偏屈な人ばかりの集まり。

「おい!足の前後運動を中断しろと要求している。」

 また意味不明なことを…。

「奥村華!」

 突然呼ばれた名前に驚くと手をつかまれた。
 無情にもそこはあの認証する機械の前。

 昨日のデジャビュかと思えるほどに近づいてくる南田の顔。
 何故かものすごくスローに思えるのに振り払えない。

 ピッ…ピー。「認識しました」機械の音声を呆然と聞く。

 南田は華のつかんだ手をそのまま持ち上げて認証させていた。
 もちろん南田のも。

「どうしてこんなこと!」

 華は南田の腕を振り払うと今度こそ出口へ向かった。
< 7 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop