キス税を払う?それともキスする?
南田さんって思ったよりいい人なのかな…。
顔は完全にタイプなんだけど…。
またぼんやりしている華に南田が何かを話し出していた。
「…残業など無能な奴がするものだ。」
無能…。
華は絶句して何も言えなかった。
確かに今日は南田のことで思考回路は全滅だった。だからって…。
「えぇ。私は無能ですから。失礼します。」
「おい。どこへ行く。そっちに出口はないはずだ。」
屁理屈野郎め!分かってる。出口に向かってるわけじゃない。
あなたの顔も見たくないだけ。
だから設計の…理系の男なんて嫌なんだ。
なんでも理詰めで自分が一番正しいと思ってる。
華は自分が所属する部署を魔の巣窟と秘かに呼んでいた。
偏屈な人ばかりの集まり。
「おい!足の前後運動を中断しろと要求している。」
また意味不明なことを…。
「奥村華!」
突然呼ばれた名前に驚くと手をつかまれた。
無情にもそこはあの認証する機械の前。
昨日のデジャビュかと思えるほどに近づいてくる南田の顔。
何故かものすごくスローに思えるのに振り払えない。
ピッ…ピー。「認識しました」機械の音声を呆然と聞く。
南田は華のつかんだ手をそのまま持ち上げて認証させていた。
もちろん南田のも。
「どうしてこんなこと!」
華は南田の腕を振り払うと今度こそ出口へ向かった。