キス税を払う?それともキスする?
 社内ではいくら世間から認証の機械が撤去されないとしても、新しい受注は見込めない。

 そのため大勢雇うことになった派遣の契約が今月を持って打ち切られる人が大半だった。

 もちろん最初からそのような契約だろう。
 それでも勝手に思えて仕方なかった。

 そして華にとっては
「そういう契約」
 というフレーズが胸にズキッと刺さった。

 きっと近いうちに社員同士のペア制度も廃止されるだろう。
 そうなったら華は南田とはなんの関わりもなくなってしまう。

 どこまでも振り回されっぱなしの華は嫌気がして席の南田を盗み見る。
 相変わらずの無表情に声がかけれずにヘルプデスクに向かった。

 飯野さんはいつも以上にニコニコして迎えてくれた。

「今日は総仕上げだ。ここまで頑張ったな。」

「もうお終いってことですか?」

 華はここでも不安を感じた。
 自分はまだまだで、南田に追いつける感じなど全くしなかった。

「南田にも確認済みだ。
 基礎はバッチリだとお墨付きだよ。」

 南田さんがそんなことを?
 華は信じられない気持ちだった。

 浮かない顔の華に飯野は微笑んだ。

「大丈夫。きっと全部うまくいく。」

 その全部が何を示してるのか華は聞けなかった。


 午後からの仕事は、認証機械の仕事をしていない華たちにとっては特に変わったこともなく仕事を終えた。

 そして華たちは一緒に会社のビルを出た。癒着についてひと段落したため報道陣はすっかり姿を見なくなっていた。

 ビルを出ても「じゃ」の声をかけない南田の後を華は続いて歩く。

 契約についての話し合い…。どうなっちゃうんだろう。

 華は期待よりも大きな不安に押しつぶされそうだった。
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