BAD & BAD【Ⅱ】
「ですが、なんでもなくても、ちゃんとあとで傷の手当てしてくださいね?」
「……き、聞かないの?」
「何をです?」
「この、傷のこと……」
何事もなかったかのように淡々としている私に、師匠は焦りをしぼませながら拍子抜けしていた。
聞きませんよ。
私のポリシーに反しますもん。
剛の理由や桃太郎の昔話を聞いた時には感じず、たかやんの弱音や師匠の傷痕に触れた時には感じた、
あのあからさまな境界線は、「もーういいよー」と言われるまで踏み込まないと決めている。
もしも、誤ってつま先が境界線を越えてしまったら、空気を読んで即座に話題を変えて、境界線から離れる。
立ち入り禁止の向こう側は、きっと、この線を引いた人の葛藤に侵されているんだろう。
そっちに行ったら、仲間のことをさらに理解できるのは確かだ。
でも、こっちに残っていても、仲間を想う気持ちは何一つ変わらない。
気にならないと言えば嘘になるけど、どうでもいいかと聞かれれば頷ける。そのふたつの狭間に、私自身が困ったことにすっぽり収まってしまっている。
だから、私は。
独りで背負っている隠し事の片鱗すら、聞こうとは思わない。
「だって、なんでもないんでしょう?」
「……う、うん……」