BAD & BAD【Ⅱ】
愉快な師匠をほっといて、早速落とし穴の側面に手と足をかけて登り始めた。
クライマー幸珀の2度目の挑戦だ。行くぜ!
「頑張れ、幸珀ー!」
「あの、師匠」
「ん?」
「地上に着いたら、スタート地点に引き返してください」
「えっ、どうして?」
男一人担ぎながら登って、その上お喋りまでしちゃってる私、クライマーとしての実力がありすぎない?
本格的に登山者になった方がいいレベルだよね?そうだよね?ね?
才色兼備ってこういうことをいうのかも。
さらにスペック高くなっちゃった。モテる要素が増えていくのも困ったものだわ。おほほほ。
「その状態じゃ、レースどころじゃないですからね。真修にしっかり手当てしてもらってください」
審判の真修ならレースに支障はないし、応急処置の心得くらいありそうだから、私の雑な処置よりも的確に診てくれるはずだ。
なんと言っても、真修は無自覚ジェントルマンだからね。ジェントルマンはそれくらいできる、と思う。
私の想像内の紳士は、皆できる。優しさだけでできてるような奴だし。多分、できる、気がする。できなかったらできなかったで、まあ、なんとかなるだろ!