BAD & BAD【Ⅱ】
私は決して背中を押さない。
師匠が自分自身の意志で踏み出して、境界線を消せたら、オレンジジュースを丸ごとぶっかけてあげよう。
「……幸珀は、すごいなあ」
「私がすごいのは、今に始まったことじゃないですよ?」
「自意識過剰なところがすげぇよな、わかる」
ちょい待てや、剛。わかるじゃねぇよ。
私のすごさはそこじゃないだろ。
もっと別の、例えば可愛いところとか美しいところとか、自意識過剰以外にスポットあてる場所あるよね?
なぜにピンポイントで自意識過剰を選んだ!?
「幸珀は俺のことを、俺以上にわかってるんだね」
「そりゃあ、師匠とは付き合い長いですからね。それに、師匠はわかりやすいですし」
無自覚に私にすがっていた師匠は、自分の弱さを痛感し、もどかしげに微笑んだ。
その笑顔は、一瞬で枯れて。
また、目の縁に涙が溢れていく。
「今度は幸珀が京を泣かせやがった!!」
「えっ、ち、ちがっ……!」
桃太郎、デタラメ言わないで!
泣かせてないよ!