BAD & BAD【Ⅱ】
窓の隙間から侵入してきた、ひんやりとした夜風が、火照りを冷ます。
数回深呼吸をして一歩前に出た師匠に、この場にいる全員が注目した。
師匠の手がゆっくりと、自分の浴衣をはだけさせていく。
「いつからなのか思い出せないくらい昔から、ずっと、こうなんだ」
始まりの言葉は、ひどく寂しそうに落とされた。
浴衣の前が広がって、師匠の体の痛々しい傷がはっきりと見える。
「一体誰に、その傷を……!?」
「母さん、だよ」
目を丸くして問いかけた真修に、師匠はぎこちなく答えた。
え?
師匠に傷を負わせたのは、師匠のお母さんだったの?
師匠の瞼が、そっと伏せられた。体の傷を指先でなぞり、鼓動の乱れを整える。
一拍おいて、師匠の瞼が穏やかに持ち上げられた。
「改めて、皆にお願いさせてほしい」
師匠の声色が、明らかに変わった。
独りで踏み出す、果敢な声。
「俺を、この傷をつけた母さんを……俺達家族を、助けてくれないか?」
助けてほしいのは、師匠自身だけじゃなくて、師匠を傷つけたお母さんも?
多少混乱はしたが、困惑はしなかった。