BAD & BAD【Ⅱ】




師匠は目を閉じて、深呼吸をした。


すぅ、と息を吸って。

はぁ、と息を吐く。


胸の内側にぎゅうぎゅう詰めにされていた緊張と共に。



静かに、目を開ける。


師匠はテーブルに置いていたビデオカメラを手にして、剛が撮った映像を京ママに黙って見せた。




『母さんっ!』


『……』


『っ、やめて、母さん!!』




さっきの光景が、叫喚が、騒音が、苦痛が、

虚しさをのせて再生される。



京ママが師匠に向かって椅子を振り下ろしたところで、映像はプツリと切れた。




「な、に、これ」



初めて自分の暴走を目の当たりにした京ママは、信じられないと言わんばかりに、震える手で口を覆った。


京ママの顔色が、一気に青くなる。



「じゃ、じゃあ、この部屋がこんなに散らかっているのは……」


「母さんが、やったんだよ」



実は、映像は加工されたものだと疑われないか心配していた。


音声や画像だけだったら、季節外れのエイプリルフールだと、疑われていただろうな。

映像を選んで正解だった。



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