BAD & BAD【Ⅱ】
ここには幸福しかないと、信じきっていた母親の頭上に、息子がずっと隠し持っていた絶望が、突如転がり込んできた。
模範のような関係図だったのに、視点を少しずらしただけで、形は変わってくる。
不思議で、憐れで、淡い、歪な関係図を誰もが拒んでは、知らぬ間に引き寄せている。
「ごめん、ごめん……ごめんね」
何度も何度も「ごめん」を繰り返していた。
京ママは、怖いんだ。
いつから間違えたのか、あれは間違いだったのか、何が間違いなのか。
身に覚えのない、けれど確かに自身が起こした罪も、何もかも、わからないから。
「ねぇ、母さん」
動揺を消せない京ママの手を、師匠の手がふわりと包み込む。
京ママは涙を止められないまま、たどたどしく顔を上げた。
「俺、言ったじゃん」
「え……?」
「母さんは、俺の自慢だって」
ギュッと京ママの手を握りながら、優しく微笑む。
その笑顔は、世界で1番と言っても過言ではないほど魅力的で、とてもきらめいていた。