BAD & BAD【Ⅱ】
京ママは、頑なに自分を許そうとはしなかった。
京ママにもあるんだ。
母親としての、強い覚悟が。
……師匠、どうするんだろう。
このまま終われば、作戦は失敗する。
でも、ここで終わる師匠じゃないでしょう?
「……母さん、あのね」
頭を下げ続ける京ママに、柔らかな声色で話しかける。
「俺さ、何度も苦痛を味わってきたけど、やり返そうとか母さんにも同じ思いをさせてやろうとか、そんなあくどいこと、一度だって考えたことなかったんだ」
「え?」
「なんでだと思う?」
京ママはほんの少しだけ視線を上げて師匠を見つめるだけで、何も答えようとはしなかった。
代わりに、師匠が笑みを漏らす。
「母さんのことが、大好きだからだよ」
「っ、」
「大好きだから、この秘密を教えたくなかった。大好きだから、傷つけたくなかった」
ポロッとあっけなく、京ママの目尻から涙が落っこちた。
「母さんがこの秘密を知ったら、今みたいに自分を責めると思った。母さんの負担を増やしてしまうのは嫌だったから、どうしても母さんに打ち明けられなかったんだ」
言葉が見当たらない京ママは、師匠の笑顔を眩しがっているようだった。
「それに、普段の母さんはすっごく優しいから、心のどこかで『もう暴れないかも』って、何の根拠もなく期待しちゃったりもしてた」