BAD & BAD【Ⅱ】
京ママを欺いていた、師匠の精一杯の嘘。
思いやりに溢れた、優しい嘘。
誰かのためにつく嘘は、どうしてこんなにも涙を誘うのだろう。
ヒトというのは、難しいね。
守ってる側だったはずのオトナが、知らないうちに守られる側になってる。
「ずっと、母さんを助けたかった」
「京くん自身じゃなくて……?」
「うん。母さんのことを、助けたかったんだ」
師匠は両方の手のひらで、京ママの震えの止まらない手を温めた。
じっくり、じっくり。
想いを、温もりに変えていく。
「俺ひとりじゃ無理だったけど、仲間がいたから、こうして母さんと向き合えてる」
一瞬、師匠がこちらを見た。
キッチンから顔を少し出して様子を窺っていた私と、目が合ってすぐに、京ママの方に戻ってしまった。
そうですね。この作戦を実行できてるのは、紛れもなく私達……というか私のおかげですね。
もちろん、師匠がいてこそ、ですが。
ひと呼吸おいて、短い沈黙に重ねるように、また師匠の口が開かれた。
「母さん、もう謝らないで」
「でも……」
「お酒をやめれば酒乱になることはないんだから、そう自分を責めないでやって」
夜が、更けていく。
同じ速度で、師匠と京ママの鼓動が高鳴る。