BAD & BAD【Ⅱ】
てっきり、小泉パパと一緒に教室を出て行ったかと推測してた。
なんで一緒に行かなかったんだ。空気読んでよ。
善兄は余裕そうに、喉を鳴らして笑った。
胸キュン的な意味で殺傷能力の高い、善兄の極上な笑顔に心臓を殺られたクラスメイトが、メロメロになりながら善兄を囲んだ。
うっわ、善兄の周りだけうじゃうじゃしてる。あそこには近寄りたくないな。
私は教室の端を慎重に移動して、善兄のいるうじゃうじゃスペースを避けながら、自分の席を目指した。
移動中もずっと、私の姿が善兄の視界に捕まえられているようで、お腹の底から悪意がこみ上げてきた。
教育実習生がやって来た先週に、なんとなく気づいたことがある。
善兄は、皆のいるところでは、私に執拗に迫ったりしない。
夏休み明け初日の朝は例外として考えてみたら、至極単純にそういった考えにまとまった。
教育実習とはいえ、先生と生徒。恋愛関係になることは、やってはいけない禁断の行為。
当たり前と言っちゃあ、当たり前だ。
だから普段は、名前を呼んだり、笑顔を向けてきたり、近くに寄ってきたり、何かと口実をつけて2人きりになろうとしたり……あれ?普段から割と、私と距離を詰めようとしてないか?
で、でも、普段は結構、善兄は煩悩を抑えている、と思う。た、多分。
抱きついてきたり、愛の告白をしてきたり。
そういう、傍から目撃されたらすぐに問題になるようなことは、普段は……あえてもう1回言おう、普段はやってない。
2人きりになると、途端に強気になってがっついてくるけど。本気でやめてほしい。迷惑だ。