BAD & BAD【Ⅱ】
「……そっか。まだ僕だけを選んではくれないんだね」
「まだじゃなくて、ずっと」
「人の心は移ろいやすいんだよ?」
「私は移ろかない」
「それはどうかな?」
強い独占欲も身勝手な束縛も、善兄のひとつの魅力なのかもしれない。
だけど、自由に生きていたい私にとっては、どれも重量オーバー。
今世では無理だから、来世に期待して?
不意に、チャイムが鳴った。授業が終わったんだ。
もうそんなに時間が過ぎてたんだ。気づかなかった。
「休憩は終わりだ。行かなくちゃ」
「そのままこの世を去れ」
「幸珀も一緒ならいいよ」
「私を道連れにすんな」
「じゃあ、去らずに生きてるよ」
私から離れた善兄は、私と2人きりで過ごせたことがそんなに嬉しかったのか、妖艶に微笑みながら給水塔から降りた。
未だ、恐怖に、囚われる。
「またね幸珀」
善兄はそう言い残して、屋上から出て行った。
バタン、と扉が閉まる音が響く。
地面に座り込んだ私の心臓の奥底で、縛られていたような苦しさが必死にもがいていた。