BAD & BAD【Ⅱ】
ガラッと扉を開けると、部屋にオレンジ色の光が差し込んだ。
部屋を出てすぐ振り返り、
「いーっだ!!」
口の端を思いっきり横に引っ張って、今できる最大の抵抗を善兄に示してから、下駄箱まで走っていった。
私は魔の手から脱出できて安堵していて、気がつかなかった。
心臓が、痙攣したみたいに震えていることに。
部屋に1人取り残された善兄は、喉を鳴らして笑っていた。
「やっぱり、最高だね幸珀は」
私を追いかけようとはせず、今日は見逃してあげるつもりらしい。
先程私の渾身のパンチを受け止めた手のひらに、そっとキスをする。
「そのたくましさも、勇敢さも、あどけなさも、全部全部愛おしい」
ピアスを揺らしながら、ポツリと呟いた。
善兄の溺愛心が、より大きく膨らんでいく。
「早く、僕のものにならないかな」
後ろから「愛してるよ」と善兄に囁かれた気がして、思わず立ち止まった。
頭を左右に振って、空耳だと自分自身に言い聞かせる。
恐怖をできるだけ拭って、再び走り出した。