BAD & BAD【Ⅱ】




抱きしめられたり頬をすりすりされたりはしたけど、それくらい。それもすっごく嫌で、憎らしかったのは変わりないけど。


善兄なら私を軟禁したり、縄で縛り付けたりするのは朝飯前なのに、しなかった。




別れ際は案外さっぱりとしていて、屋上で会った時のように『またね幸珀』と微笑んでいたっけ。



別れ際と言っても、人気のない廊下の隅で、名残惜しそうに私を抱きしめてきた善兄を、

本領が発揮できない私とボディーガードの朔が力を合わせて引き離した、寂しさの欠片もない別れのシーンのことだ。ていうか、あの時は早くさよならしたかった。できれば、一生の別れになればいいな。





善兄が学校からいなくなってホッとしたと同時に、一抹の不安が芽生えた。




誰よりもずる賢くて、欲望のためならなんでもするあの善兄が、今まで散々向けてきた、善兄にしては浅はかな愛情表現で満足するとはどうしても思えなかったんだ。



考えすぎなのかもしれない。ネガティブ思考になってしまってるのかもしれない。


でも、善兄が軽薄すぎて、裏があるとしか……。



影を帯びた予感が、不安を膨らませていき、パチンと割れた。




いや、やっぱ、深く考えすぎだよね。

あの善兄だって、純粋なところがちょっとは残ってるんだよ。うん、そういうことにしておこう。



そうしないと、潰されちゃいそうだ。思い詰めすぎるのはよくない。


善兄のことは忘れよう。きっと、それでいい。気にするな。軽く、淡く、愉快にいこう。




解放感が、崩壊した不安を包んでいった。




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