BAD & BAD【Ⅱ】
「思い返せば、そう言った時、あいつは笑ってた。怖いくらい、完璧に」
その時の記憶を拒否するように、グッときつく拳を握った。
拳の中にある紙パックは、もうぺちゃんこだった。
「僕は違和感なんか気にせずに、鷹也と帰ろうとしたんだ」
「だけど、校舎を出て帰ろうとした俺達に、以前弘也に告ってきた奴が声をかけてきたんだ」
弘也の辛そうな横顔で察して、たかやんが続きを紡ぐ。
ドクン、と心臓が鈍く跳ねた。
「切羽詰まった様子で、『助けて』って」
まさか……。
弘也は酸素を求めて、息を吸い込んだ。
「話を聞いて慌てて、事が起こってる校舎裏に向かった。そこにいたのは、僕を好きになってくれた女の子ほぼ全員と、あいつだった」
なんとなく、過去の全貌の予測がついた。
乾いた喉に、生唾を送る。
「小学生には残酷で衝撃的な光景だった」
「衝撃的な光景?」
「弘也に色目を使ってたのが許せなかったのか、あいつが女子達に暴力を振るってたんだよ。俺達が来る前から、ずっと。女子達の顔や腕や足に、尋常じゃないくらいの、痛めつけられた跡がついてた」
たかやんはそう言うと、強く奥歯を噛み締めた。