BAD & BAD【Ⅱ】
善兄が抱きつき魔で、私を溺愛しているだけだったら、よかったのに。
なんで、私を弱くするの。
なんで、私に憎しみを植え付けるの。
――だから、嫌いなんだ。
『愛してるよ、幸珀』
『またね幸珀』
不意に、耳障りな記憶が廻った。
あの事件の時の声と、最近の別れの声が、私の名を呼ぶ。
ぐちゃぐちゃにかき乱されて。
もう、何もかもをシャットアウトしてしまいたかった。
どうして今、思い出してしまったの?
思い出す要素も、あの事件とリンクするものも、なかったはずなのに。思い出したくなんかなかったのに。
どうして。
「幸珀?」
「え?」
「どうした?」
剛が、私を覗き込んできた。
何が?
「顔、真っ青だぞ?」
どくん、と心臓が軋んだ。