BAD & BAD【Ⅱ】




善兄が抱きつき魔で、私を溺愛しているだけだったら、よかったのに。



なんで、私を弱くするの。

なんで、私に憎しみを植え付けるの。



――だから、嫌いなんだ。





『愛してるよ、幸珀』


『またね幸珀』



不意に、耳障りな記憶が廻った。



あの事件の時の声と、最近の別れの声が、私の名を呼ぶ。





ぐちゃぐちゃにかき乱されて。


もう、何もかもをシャットアウトしてしまいたかった。



どうして今、思い出してしまったの?


思い出す要素も、あの事件とリンクするものも、なかったはずなのに。思い出したくなんかなかったのに。



どうして。



「幸珀?」


「え?」


「どうした?」



剛が、私を覗き込んできた。


何が?



「顔、真っ青だぞ?」



どくん、と心臓が軋んだ。



< 485 / 730 >

この作品をシェア

pagetop