BAD & BAD【Ⅱ】
内心嘲笑いながら、残りわずかとなった家路を歩く。
伸びていく影が、夕闇の存在をほのめかす。
すると、朔が急に立ち止まった。
「どうしたの、朔」
も、もしかして、嘲笑ってることがバレた?
やばい。また叩かれるかも。
慌てている私とは正反対に、朔はミステリアスな雰囲気に包まれていた。
……バレてるわけじゃ、なさそう。
「朔?」
やや俯いている朔の視線と、私の視線が静かに交わった。
私達の間を、夏の終わりを示唆する風が通り過ぎる。
「もし、」
「ん?」
朔の声が、ポツリとこぼれる。
不思議そうに首を傾げれば、いつになく余裕なさげに顔が上げられていった。
朔の顔は夕日に照らされてよく見えなかったけれど、切なくてもどかしそうなのは、なんとなく感じ取れた。
お互いの鼓動が聞こえてしまいそうなくらい、周りの音が全て、ちょうどよく消え去った。
「もし、俺が凛よりも先に……」
「?」
「……いや、やっぱなんでもねぇ」
「えー!?何それ、超気になるんですけど。ねぇ、続き何?教えてよ」
「嫌だね。死ぬまでずっと気になっとけ」
何度教えてほしいと頼んでも、朔は舌打ちをしながら頭をかくだけで、決して口を割らなかった。
頼むのに夢中だった私の黒目には、ほんのり赤くなっていた朔の耳は映っていなかった。