BAD & BAD【Ⅱ】
狂気のアガペー
教室の窓からは、それほど光が入ってこない。
薄暗さが、善兄の淀んだ心を一層際立たせる。
手首に伝わる冷たい鎖の感触が、まるで手錠のようで、焦りや戸惑いを植え付けていた。
『幸珀は、僕のこと好き?』
頭の痛みで、善兄の気色悪さをはぐらかした。
鏡を見なくても、自分の顔が今、醜く歪んでいるのはわかった。
『好き、だった』
『だった?過去形なの?ひどいな』
『ひ、どいのはどっ、ちだ』
あぁ、声が、つっかえる。
息がうまくできない。
『いいよ。今は過去形でも、また僕を好きにさせるから』
勘違いしているようだけど、私は今までもこれからも、善兄を恋愛感情で好きにならないよ。
私の「好き」は、そう簡単に奪えやしない。
イケメンでハイスペックな善兄だとしてもね。