BAD & BAD【Ⅱ】
過去形で収められなくなっていたくらい、私は善兄を恐れていたんだ。
先程までは、確かに、好意が在ったはずなのに。
恋じゃなくても、ひとつの「好き」の終わりは悲しくて。
泣くもんかって強がっていたけれど、あっけなく涙を1粒だけこぼしてしまった。
『僕のものになってよ、幸珀』
絶対、嫌だ。
そう反抗する代わりに、涙が輪郭を滑って床に落ちた。
善兄が涙の跡をなぞるように、そっと口づける。
口とほっぺでも、嫌いな人とのキスは最悪だ。一生忘れてしまいたい。
善兄の唇が離れたかと思ったら、今度は私を抱きしめてきた。
『抱きしめるなって何度も言ってるでしょ!!』
善兄の体を、肩で押し返す。
あれ?
さっきより、体が動く。まだちょっとカサついてるのを除けば、声もしっかり出てる。
皮肉なことだけど、だんだん慣れてきたんだろう。それとも、善兄が大嫌いと気づいて開き直ったなのか。もしくは、両方か。
まあ、今はどっちだっていい。
動けるなら、この状況をどうにかできるかもしれない。